『東京奇譚集』 村上春樹
のんびり普段の休日を味わおうと思い、『東京奇譚集』を買ってスタバへ行く。
レモンケーキと今日のコーヒーショートサイズを頼んで窓際の席で読みふけった。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/09/15
- メディア: 単行本
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取るに足らない、でもちょっと不思議な話を集めたこの本。
予想以上に良かったんです。
最高です。春樹殿!!
「偶然の旅人」
ピアノの調律師をしているゲイの人のお話。
音楽大学を出ていてラベルなんかのフランス音楽を上手く弾く。
中でも一番愛好しているのがフランシス・プーランクの曲、と書いてあったので早速アマゾンでプーランクのCDを探す単純なヤツがここに一人・・・。
話の内容はごく普通。
虫の知らせがあって、10年も会っていなかった姉に連絡を取ったら翌日に手術を控えていたって話。
何てことはないんだけど、この村上さんの小説って言葉の流れがこの上もなく魅力的。
「僕は偉そうなことを言える立場にはないけれど」と彼は言った。「しかし、どうしたらいいのかわからなくなってしまったとき、僕はいつもあるルールにしがみつくことにしているんです」「ルール?」「かたちあるものと、かたちのないものと、どちらかをえらばなくちゃならないとしたら、かたちのないものを選べ。それが僕のルールです。壁に突き当たったときにはいつもそのルールに従ってきたし、長い目で見ればそれがよい結果を生んだと思う。そのときはきつかったとしてもね」
大学の時、国際文化に関する講義を取っていた。
国には様々なしかし典型的な価値観、というものが存在する。
その講義の教授トーマス(←イギリス人。よく怒られていたので覚えている)は、こんな図で説明してくれた。
氷山は3分の2が水中に沈んでいて見ることが出来ない(2,3)が、頂上の最もよく見えるところ(1)は、氷が積み重なった結果、今見えているところである。
人にたとえてみても共通する部分があり、頂上部分の最も分かりやすい、見やすい部分(1)が言葉として発せられるものならば、海中に沈んでいる部分に言葉を発した動機となる価値観(2)や、価値観が形成されるまでの経験(3)が隠れている。
見える部分だけで物事を判断するのではなく、状況に応じて見えない部分にも注意しなければならない、と。
こんなことも思い出した。
何年か前まで、いわゆる駅前留学をしていたんだけれど、そこでのレッスンの話。
そこのスクールの先生は、日本人の奥さんがいる人が多く、その日レッスンをしてくれていた先生(男)も、そんな国際結婚をした一人だった。
彼は奥さんのことをとても愛しているようで、ある時「旅行の資金は500円玉貯金をして溜まったら旅に出るんだ。奥さんと二人で色んなところに行くんだよ。」と言葉では淡々と、でも嬉しそうに目を細めながら話をしてくれていたことがあった。
何日かたって、その日は私の他にもう一人、同世代の女の子が生徒としてレッスンを受けていた。
先生は500円玉貯金で奥さんと旅にでる彼。
レッスンの途中、彼はこんな質問を私たちにした。
「向こうにいるA先生と僕、どちらがロマンチストだと思う?」
一見するとA先生の方がロマンチストに見えるが、ちゃんと話を聞き、相手の目やちょっとしたしぐさを見ていたらそんな質問をしている彼の方も結構なロマンチストだと言うことが分かる。
女の子は「A先生だ」と答えた。
質問をした先生は、ちょっと残念そうに私に目配せをしてきたのが印象的だった。
そんな話を何となく思い出しつつすするコーヒーも中々味乙なものです。